
【完全版】第4回:デザイン思考の5段階プロセス/アイデア創出(Ideate)とは?
Contents
革新的な解決策を生み出す方法
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1. はじめに
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こんにちは!デザイン思考の5段階プロセスを順番に見ていくシリーズ、第4回目のテーマは「アイデア創出(Ideate)」です。前回の「定義(Define)」では、共感(Empathize)の結果を整理して、「誰のどんな課題を、なぜ解決するのか」を明確にしました。いよいよこの段階で、その課題に対する具体的な解決策のアイデアを幅広く生み出す作業に入ります。
私は現在も、ファッション業界や建築業、飲食業、エステサロンなど複数の事業を運営しています。それに加えて近年は都内のIT企業の顧問や、海外投資家の日本進出をサポートするコンサルティング業務も行っています。さまざまな分野に携わっていると、どこでも必須となるのが「課題をどう解決して新たな価値を生み出すか?」というアイデア創出のプロセスです。
今回は、アイデア創出の基本的な考え方から具体的な手法、そして事業の現場で活きた事例までを詳しく解説します。既存の枠組みを超えて斬新なアイデアを生み出すコツをぜひ掴んでください。
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2. アイデア創出(Ideate)とは?
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2-1. アイデア創出の目的と位置づけ
デザイン思考の流れは、「共感 → 定義 → アイデア → 試作 → テスト」と進んでいきます。アイデア創出(Ideate)は、定義フェーズで明確にした「本質的に解決すべき課題」に対して、多様かつ革新的な解決策を考え出すステップです。ここでは1つの正解を求めるよりも、考えうる限り多種多様なアイデアを広げることが肝要となります。
2-2. 「量」を重視し、発想の幅を広げるステップ
デザイン思考が推奨するのは「質より量」を優先する姿勢です。最初から完璧な案にこだわってしまうと、発想が狭まり、斬新な着眼点を見逃してしまいがち。あえて制約を外し、多彩なアイデアを「出し放題」にすることで、新しい気づきやビジネスチャンスが見える可能性が高まります。
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3. アイデア創出が重要な理由
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3-1. イノベーションの源泉
既存の常識に囚われない発想は、従来の市場には存在しなかった商品やサービスを生む原動力です。ファッションブランドなら、今までにない素材や機能を備えたウェアを発想するチャンスが生まれますし、建築分野なら住まいの概念を大きく変えるようなプランが生み出されるかもしれません。
3-2. 多様性の確保
チームでアイデア出しをするとき、メンバーが多様な経歴や専門知識を持っているほど、新鮮なアイデアが生まれやすくなります。私自身が複数事業を手掛けていると、例えばエステサロンの“リラクゼーション発想”が建築の空間デザインに活きることがありますし、飲食の“顧客体験”視点がITサービス開発に役立つケースも珍しくありません。
3-3. 失敗を恐れない文化の醸成
アイデア創出では、実行や検証の前段階であり、「現実的かどうか」をすぐ判断する必要はありません。むしろ、変わった発想や一見非現実的に思える提案も歓迎されるべきです。失敗を恐れずに発想を広げる文化がチーム内に根付くと、その後の試作や検証段階でもポジティブに挑戦しやすくなります。
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4. アイデア創出の進め方と代表的手法
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ここからは、実際にアイデアを生み出すときによく使われる4つの手法をご紹介します。それぞれのメリット・特徴を理解し、状況に応じて使い分けると効果的です。
4-1. ブレインストーミング
アイデア出しといえば「ブレスト」と言われるほど有名な手法です。参加者が自由に意見を出し合い、他者の意見を否定せず、発展させることを重視します。
実施のポイント
• 批判・否定はしない: どんな案でも一旦は受け入れる。
• 量を優先する: 短時間にできるだけ多くのアイデアを出す。
• 相乗効果を歓迎する: 他人のアイデアから連想や発展を行い、新たな案に繋げる。
4-2. SCAMPER法
既存のサービスや商品を新たに変化させる視点を7つの切り口(S・C・A・M・P・E・R)に分解して考える方法です。
1. Substitute(代替する)
2. Combine(組み合わせる)
3. Adapt(適応する)
4. Modify(修正する)
5. Put to another use(転用する)
6. Eliminate(削除する)
7. Reverse/Rearrange(逆転・再配置する)
たとえば、エステサロンのサービスを発展させるなら、
• Substitute: 従来のオイルを最新のデータに基づいた高機能オイルに変える
• Combine: 食事指導とセットにしてライフスタイル全体をサポート
• Reverse: 施術後に自宅用キットを提供し、日々のケアを促進
など、多角的に改善策や新プランを考案できます。
4-3. マインドマップ
中心にテーマ(課題)を置き、そこから関連する要素やキーワードを放射状に繋いでいく手法です。視覚的に情報が整理でき、意外な関連や新しい発想を導きやすいのが特長です。
実施例
中心テーマ:「飲食店の客単価向上」
→ サブテーマ:「メニュー構成」「接客スタイル」「内装・雰囲気」「デジタル施策」
→ さらに枝葉を増やしながら、「カウンター限定メニュー」「予約時割引」「季節イベント連動」といった具体策をどんどん付け足す。
4-4. ローリングプロトタイプ
アイデア創出の段階で、紙や簡易模型など低コストな試作品を作り、チームで議論を重ねながらアイデアを発展させる方法です。実際に形にしてみると、抽象的な議論だけでは見えない改善点や発想が浮かびやすくなります。
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5. ビジネス現場でのアイデア創出活用例
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このラインより下のエリアがnoteでは有料で表示されます。
5-1. IDEOによるショッピングカート再設計
IDEOはデザイン思考の代名詞ともいえる企業であり、「ショッピングカートを再発明する」というプロジェクトでも、チーム全員がブレインストーミングと素早いプロトタイピングを繰り返しました。安全面や使い勝手、陳列・回収効率など多角的に発想を広げた結果、従来のカートにはなかった機能・構造を備えた画期的なモデルを提案し、話題を集めました。
5-2. LEGOのターゲット拡大
LEGOは元々子ども向けの玩具として認知されていましたが、アイデア創出を積極的に行うことで「大人向けプレミアモデル」や「建築コレクション」「ロボット教育向けキット」など、ターゲットを多様化することに成功しました。これは「LEGOは子どものおもちゃ」という固定観念をあえて外し、「積み木」の概念をあらゆる方向に展開したアイデアのたまものです。
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6. 私の事業経験における「アイデア創出」の実践
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私はファッション、飲食、建築、エステサロンなどの事業を継続しながら、近年はIT企業の顧問や海外投資家へのコンサルティングも並行して行っています。そのどの領域でも、新しい企画やサービスをつくる際に欠かせないのが「アイデアをどう引き出すか?」というプロセスです。
6-1. ファッションブランドへの導入
ファッションの世界はシーズンごとにトレンドが目まぐるしく変化するため、新商品企画のサイクルが速いです。定期的にデザイナーや販売スタッフ、マーケターが集まってブレインストーミングを行い、既存の商品や流行をSCAMPERの視点で見直すことで、思いがけないアイデアに繋がることがありました。具体的には、普段スポーツウェアに使われる機能素材を日常服へ転用するなど、異業種の要素を組み合わせる発想が生まれたケースが顕著でした。
6-2. 飲食事業でのメニュー開発会議
私が運営している飲食店でも、スタッフ全員でマインドマップを描きながらアイデアを出す習慣があります。「集客力アップ」「回転率向上」など大きなテーマをまず設定し、そこから具体的なメニューアイデアやオペレーション改革案を枝葉状に展開していきます。このプロセスを経ると、普段は気づきにくい料理の組み合わせやサービス改善のヒントが大量に浮かび上がってくるのです。
6-3. エステサロン・建築デザインでのサービス企画
エステサロンや建築関連の事業でも、新コース開発や空間デザインの刷新を検討する際、ローリングプロトタイプを取り入れています。たとえばエステでは、施術フローを紙に書き出し、一連の動きをシミュレーションするうちに「この工程が重複している」「もう少しリラックス要素を加えられる」といった改良点を発見します。建築でも、簡易な模型やスケッチを作りながらチームでディスカッションすると、単なる頭の中の議論に比べてより具体的なアイデアが出やすいです。
6-4. IT企業顧問・海外投資家向けコンサルでの新規構想
IT企業の顧問では、アプリ開発チームのブレインストーミングに参加することが多く、外部から見たユーザー体験やマーケティング視点を交えてアイデアを膨らませます。海外投資家向けコンサルでは、「日本市場でどんな新規サービスが可能か?」というテーマでマインドマップを駆使する場面もしばしば。ファッションや飲食、エステなど多業種の“現場感覚”をヒントに、想定外のビジネスモデルが提案できることもあり、まさに“異分野融合”の醍醐味を感じています。
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7. アイデア創出成功へのポイント
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7-1. 批判せず自由に発言させる
アイデア出しで最も大切なのは「否定しない」姿勢です。会議の序盤で「それは無理」「コストがかかりすぎる」と評価すると、他のメンバーの発想まで萎縮してしまいます。特に最初の段階は“ブレーキ”を外して、とにかく発想を広げることを優先しましょう。
7-2. 量から質へ移行する
ブレインストーミングやマインドマップで多くのアイデアを出したら、次は絞り込みのフェーズに移ります。あらかじめ時間を区切り、発散(大量に出す)→収束(評価・選定)という段階を明確に分けると、効率的にアイデアをまとめられます。
7-3. 多様性あるチーム編成
私が複数の業界を行き来してきて痛感しているのは、異なる視点を持つメンバーが加わるとアイデアが一気に広がるということです。IT企業の会議に飲食やファッション出身のスタッフが参加すると「そんな発想、思いつかなかった」という化学反応が起こりやすいです。逆も然りで、海外投資家向けのコンサル現場でも、思いがけない業界の経験が活きるシーンが多々あります。
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8. まとめと次回予告
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本稿ではデザイン思考の第3ステップ「アイデア創出(Ideate)」をテーマに、なぜこの工程が重要なのか、どのような手法があるのかを具体例とともに解説しました。改めてポイントを振り返ると以下のようになります。
• アイデア創出は「質より量」を重視し、従来の枠を超えた可能性を広げる作業
• ブレインストーミング、SCAMPER法、マインドマップ、ローリングプロトタイプなど多彩な手法を使ってチームの発想を最大化
• 批判を控え、時間を区切って発散→収束のプロセスを明確にすることで、質と量のバランスを両立
• 多様なバックグラウンドのメンバーがいるほど、新たなイノベーションの種が生まれやすい
私自身が現在運営しているファッション、飲食、エステサロン、建築事業、そしてIT顧問や海外投資家コンサルなど、どの分野にも共通しているのは「アイデアは一見不可能に思えるところからこそ生まれることが多い」という事実です。実行段階の前に、まず自由闊達な空気の中でアイデアを浴びるように出し合う――このステップがデザイン思考の醍醐味とも言えます。
次回(第5回)は、アイデア創出で生まれた案を形にし、実際のユーザーからフィードバックを得る「試作(Prototype)」の段階を詳しく見ていきます。いかにして迅速かつ低コストでプロトタイプを作り、検証を進めるかが大きな鍵となりますので、ぜひお楽しみに。
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(約10,000文字)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。アイデア創出(Ideate)はデザイン思考の中でも自由な発想力が求められるフェーズですが、同時にチームの多様性や文化的要素が色濃く反映される場でもあります。次回の「試作(Prototype)」では、ここで生まれたアイデアをどう具体化し、検証フェーズにつなげるかを学びましょう。