ブランド作りの思考法
「自分たちの本質はどこにあるのか」
「顧客の未来をどう変えるか」
世界のファッションデザイナーに学ぶ「未来を動かすビジネス思考」
ファッションは単なる流行や装飾ではありません。トップデザイナーたちは、自らの言葉と実践で、「なぜ人はブランドに惹かれるのか」「時代を超えて残る本質とは何か」を問いかけてきました。経営やリーダーシップ、組織づくりのヒントも彼らの名言に詰まっています。ここでは歴史的デザイナーの言葉を、経営現場で活かせる判断軸として再定義します。
1. ココ・シャネル
ラグジュアリーとは心地いいもの。そうでなければラグジュアリーとはいわない
Luxury must be comfortable, otherwise it is not luxury.
シャネルは「贅沢とは価格やブランド力ではなく、体験の本質に宿る」と定義しました。顧客の気持ちや日常のストレスから解放されることこそが、本質的な価値になるという考え方です。この視点は、経営においても、見た目や価格より「体験そのもの」の設計にどれだけこだわれるかがブランドの差別化を決めることを示しています。顧客が商品やサービスに触れる時間を「心地よさ」として再設計することで、そのブランドは唯一無二の存在になりえます。経営者自身が自社の「贅沢の定義」を問い直すことが、組織の進化につながります。
2. クリスチャン・ディオール
真のエレガンスはいたるところに存在する。とりわけ見えないものの中に
Real elegance is everywhere, especially in the things that don’t show.
ディオールは、外から見えない細部や態度にこそ、信頼とブランドの本質が現れると説きました。これはプロセスや組織文化の徹底、社内の小さな積み重ねが、最終的なブランド力を高めることを意味します。成果や売上ばかりでなく、裏側の努力、地味な仕事、見えない「当たり前」を磨き上げることで、長期的な顧客信頼を獲得できるという示唆です。企業の「見えない資産」への投資や、現場の誠実な仕事ぶりをどう評価し、どう伝えていくかが、組織の持続的成長を支えます。
3. イヴ・サンローラン
ファッションは女性を美しくするだけでなく、安心させ自信を与えるものだ
Fashion was not only to make women more beautiful, but also to reassure them, give them confidence.
サンローランは「ファッションが自己肯定感や安心感を生み、顧客の人生そのものにポジティブな影響を与える」ことを重視しました。これはブランドや商品が顧客にどんな心理的変化をもたらすかを設計することと同じです。自信や誇り、自己肯定感をどう提供するか。体験やストーリーで顧客の心を動かし、単なる商品提供からファンづくりへと進化させることが現代経営の本質です。
4. ヴィヴィアン・ウエストウッド
むやみに買わず、よく選んで、長く大事に使いなさい
Buy less, choose well, make it last.
ウエストウッドは大量消費社会の中で、「よく選び、長く大切にする」ことを提唱しました。短期的な売上や消費を追うだけでは、ブランドは生き残れません。企業や経営者は、「選ばれる理由」を、環境や社会への配慮、倫理観まで広げて設計することが求められます。自社の製品やサービスを通じて、時代の良心や生き方そのものを提案できているか。この問い直しが、持続的成長の鍵となります。
5. カール・ラガーフェルド
ファッションとは服のことだけではない。あらゆる変化に関わるものだ
Fashion is not only about clothes — it’s about all kinds of change.
ラガーフェルドは、「ファッション=変化の編集」であると定義しました。社会や文化の変化を積極的に取り込み、時代の空気ごとブランド価値に変えていく柔軟さが求められます。企業もリーダーも、変化に受け身でいるのではなく、自ら編集し新しい価値を生み出す立場を選ぶことで、長期的な競争優位を築けます。常に未来を見据え、変化を恐れず、自分たちのストーリーを更新し続けることが重要です。
6. アレキサンダー・マックイーン
私は女性に力を与えたい。私が服を着せる女性を人々が恐れるようにしたい
I want to empower women. I want people to be afraid of the women I dress.
マックイーンは、「商品やブランドが顧客のアイデンティティそのものを揺さぶり、圧倒的な存在感を与える」ことを目指しました。単なる差別化ではなく、体験としてのブランド世界観を深く設計する。顧客が「これを身につけて変わった」と感じるレベルのインパクトを生み出すことが、模倣困難な独自性につながります。強烈な世界観や価値観を体験化することで、顧客の人生そのものに影響を与えるブランドとなることを目指します。
まとめ
歴史的デザイナーたちの言葉は、単なる流行語ではなく、経営やリーダーシップにおいて「自分たちの価値」「組織の未来」を定める本質的な問いそのものです。自社の贅沢の定義、見えない価値への投資、顧客の自己肯定感設計、倫理観とサステナビリティ、変化への編集力、体験としての独自性――これらの軸がそろった時、ブランドも組織も、時代を超えて愛され続ける存在へと進化します。
自分たちの本質はどこにあるのか。顧客の未来をどう変えるか。この問いを忘れない経営に、デザイナーたちの名言は力強いヒントを与えてくれます。