変化に強い組織を作る「意図的戦略」と「偶発的戦略」
Contents
完璧な事業計画が会社を殺す?
「ブレない軸」と「現場の機転」を両立する経営のヒント
「今期の事業計画、進捗はどうだ?」
「当初の予定と数字が乖離しているぞ、どうリカバリーするんだ?」
経営会議でこのような議論になることは、どの企業でも珍しくありません。
もちろん、計画(予算)を達成しようとする規律は重要です。
しかし、今の時代、「最初に決めた計画を遂行すること」自体が目的になってしまうと、会社は大きなリスクを背負うことになります。
今回は、経営の知見をベースに、不確実な時代を生き抜くための「2つの戦略」についてお話しします。
1. 成功した企業の93%は「当初の計画」通りではない
戦略には2つの種類があります。
経営陣が分析し、トップダウンで決めた「事前の計画」。
目的地へ向かうための「地図」のようなものです。
現場での試行錯誤や、予期せぬトラブルへの対応から「事後的に」生まれた戦略。
現場で生き抜くための「機転」です。
ある研究によると、
「当初描いた戦略がそのまま成功した企業は、わずか7%しかない」
と言われています。
つまり、残りの93%の成功企業は、走りながら現場で生まれた「偶発的戦略」をうまく本業に取り込んだ結果、生き残っているのです。
2. なぜ「真面目な計画」ほど失敗するのか?
ご存じの通り、現代はVUCA(ブーカ)と呼ばれる、先行き不透明な時代です。
机の上で完璧な計画を立てても、市場環境は明日には変わっているかもしれません。
過去の事例を見ても、失敗する新規事業の多くは「分析段階での思い込み」や「現場感覚の欠如」が原因です。
顧客のニーズを読み違えた商品開発や、現場の物流事情を無視した参入…これらは、計画段階では「論理的に正しかった」はずです。
しかし、計画に固執するあまり、「現場で起きている『小さな違和感』や『予期せぬチャンス』」を見過ごしてしまえば、それはただの「頑固な経営」になってしまいます。
3. 「想定外」をチャンスに変える組織をつくる
では、どうすればよいのでしょうか?
重要なのは、「現場の『偶然』を戦略に拾い上げる」という姿勢です。
クロネコヤマトの「宅急便」も、セブン-イレブンの「小口配送」も、当時の業界の常識(=それまでの意図的戦略)からは「採算が合わない」とされるものでした。
しかし、現場の執念と「やってみたらニーズがあった」という発見を経営が採用したからこそ、巨大なイノベーションが生まれました。
これを実現するために必要なのは、以下の5つのマインド(計画的偶発性)を組織に植え付けることです。
- 好奇心: 「おや?」と思う変化を見逃さない。
- 持続性: 失敗しても「データが取れた」と捉えて粘る。
- 楽観性: ピンチを「変わるチャンス」と捉える。
- 柔軟性: こだわりを捨てて、朝令暮改を恐れない。
- 冒険心: 結果がわからなくても、小さな実験をしてみる。
4. トップは「方向」を示し、現場は「道」を探す
もちろん、「全て現場任せの行き当たりばったり」では組織は崩壊します。
目指すべきは、意図的戦略(トップダウン)と偶発的戦略(ボトムアップ)の「いいとこ取り」です。
経営者(トップ)の役割
「我々は何のために存在するのか」「どの山に登るのか」というビジョンと大枠の目標をガチッと決める。ここはブレてはいけません。
現場の役割
その山頂にたどり着くための「ルート」は、天候(市場環境)を見ながら柔軟に変更し続ける。
Googleなどの成長企業も、大きな目標はトップが示しますが、その達成方法は現場のデータと実験に基づき、驚くべきスピードで変化させています。
まとめ:計画書は「書き換える」ためにある
もし、御社の事業計画書が「現場を縛る鎖」になっているなら、少し見方を変えてみてください。
当初の計画通りにいかないことは、失敗ではありません。それは「市場の現実」を現場が学習した証拠です。
その学習を素早く経営戦略にフィードバックし、計画を書き換えていく力(戦略的レジリエンス)こそが、これからの時代に最も強い競争力となるはずです。
「うちは計画通りにいかないことばかりだ」と嘆くのではなく、「現場からどんな新しい戦略の芽が出てきているか?」を探してみる。
そんな視点で現場を見てみると、新しい成長のヒントが見つかるかもしれません。