
【完全版】第5回:デザイン思考の5段階プロセス/試作(Prototype)とは?
Contents
アイデアを形にするプロセス
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1. はじめに
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こんにちは!デザイン思考を5つの段階に分けて詳しく見ていくシリーズの第5回目は「試作(Prototype)」にフォーカスします。前回の「アイデア創出(Ideate)」では、定義(Define)した課題に対して、多様かつ革新的な案をたくさん出す方法を学びました。しかし、アイデアが頭の中や紙の上にあるだけではユーザーや市場からのリアルな反応は得られません。そこで重要となるのが「試作(Prototype)」です。
私は、ファッション、飲食、建築、エステサロンなど複数の事業を現在進行形で展開するかたわら、都内IT企業の顧問や海外投資家向けのコンサルティングも行っています。どんな事業でも新しいプロダクトやサービスを作る際、試作段階があるかどうかで完成度とスピードに大きな差がつくと実感してきました。今回は、この試作フェーズがなぜ重要なのか、どのように進めるのが効果的かを事例とともに解説していきます。
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2. 試作(Prototype)とは?
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2-1. アイデアを具体的な形にする狙い
試作(Prototype)とは、一言でいえば「アイデアを可視化し、実際に使える状態に近づける」プロセスです。前回までの共感(Empathize)・定義(Define)・アイデア創出(Ideate)で固まった仮説を一気に現実へ引き寄せるステップといえます。ここでの試作品は完成品ではなく、あくまで「こうしたらどうだろう?」という仮の形にすぎません。
2-2. 完璧ではなく“仮の形”としてのプロトタイプ
「完璧を目指さない」というのが、試作の最も大事な考え方です。短期間で低コストに仮のモデルを作ることで、素早く検証やテストを行い、修正点を見極めることが目的。そのため、紙や付箋を使ったペーパープロトタイプや、実物を縮小再現したモックアップ、あるいは3Dプリンターを用いた簡易モデルなど、多様な手法が存在します。
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3. 試作が重要な理由
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3-1. 実現可能性の確認
アイデアを頭の中だけで考えていると、「実際には動かない機能」「コストが膨大にかかる構造」など、見落としていることに気づきにくいです。試作を行うことで、技術的・金銭的な制約や課題を早期に発見し、改良の余地を把握できます。
3-2. 失敗から学ぶプロセス
デザイン思考では失敗を「学習の機会」と捉えます。試作段階での失敗はコストもリスクも比較的低く、問題点をすぐに修正できます。この小さな失敗の積み重ねこそが、最終的に完成度の高いプロダクトを生み出す鍵です。
3-3. ユーザー視点での評価
ユーザーは言葉だけの説明より、実際にモノに触れたりサービスを体験したりすることで、はるかに的確なフィードバックをくれます。試作品があると、ユーザーがイメージしやすく、感想や改善点を具体的に指摘してもらえるのです。
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4. 試作プロセスの進め方
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4-1. 目的の明確化(何を検証するのか)
試作を作る前に、「今回のプロトタイプで何を検証したいか?」をはっきりさせます。すべての機能を盛り込む必要はなく、ユーザー体験の一部や技術的な要件など、特にリスクや不確定要素が高い部分だけに絞ってプロトタイプを作るのも有効です。
検証したいポイント例
• インターフェースの使いやすさ
• サービスの価値や魅力度
• 技術的な制約やコスト
• 空間や動線の配置(建築・店舗デザインなど)
4-2. 低コスト・迅速な試作品作成
試作品は完璧である必要がありません。スピードを重視し、安価に作ることで、素早く学習サイクルを回せます。例えば、アプリならペーパープロトタイプやクリックダミー(簡易操作できる画面)を作成し、建築なら紙模型や3Dプリンターでのミニチュアを使います。サービス業では、模擬的な接客フローをスタッフ同士でシミュレーションするだけでも、非常に多くの気づきを得られます。
4-3. テストとフィードバック収集
完成したプロトタイプを、ユーザーやチームメンバーに実際に使ってもらいながら感想を集めるステップです。ここでは感覚的な評価だけでなく、どこが良い、どこが分かりづらいなど具体的な意見を引き出せるように設計するとよいでしょう。私の場合、ファッションのサンプルウェアを試着してもらい、その着心地や見栄えを細かくヒアリングするなど、ユーザーの生の声をできる限り深掘りすることを重視しています。
4-4. 反復(Iterate)
フィードバックを得たら、それを踏まえてプロトタイプを改良し、再度テストを行います。何度も試作とテストを回していくうちに、アイデアが現実に合った洗練された形に近づいていきます。
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5. ビジネス現場での試作活用例
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このラインより下のエリアがnoteでは有料で表示されます。
5-1. Airbnb:手書きモックアップからの学び
Airbnbの初期プロトタイプは、手書きのモックアップや簡易的なウェブ画面から始まったと言われています。ホスト側とゲスト側の両方の視点で予約フローを試作し、反復的に改善。使いやすいUIや信頼感を醸成する仕組みが整うまで、小規模でテストを続けていたことが、大きく成長する土台になりました。
5-2. Dyson掃除機:5000以上の試作品を重ねてイノベーション
Dyson創業者のジェームズ・ダイソンは、サイクロン掃除機を開発するにあたり、5000回を超える試作品を作ったとされます。吸引力を落とさず、排気もクリーンな掃除機を作るために、試作→テスト→改良を延々と繰り返し、最終的に革新的な製品を世に送り出しました。まさに「失敗から学ぶ」ことの象徴的な成功例です。
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6. 私の事業経験における「試作」の実践
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現在、ファッション、飲食、建築、エステサロンなどの事業を並行して運営しながら、都内IT企業の顧問や海外投資家向けコンサルを行っている私にとって、試作はどの業種でも欠かせないプロセスです。
6-1. ファッション:サンプルウェアと迅速な改良
ファッションデザインでは、アイデアが生まれたらまずサンプルウェアを作り、スタッフやモデルに着てもらいフィット感やデザインを確認します。ユーザーからの「ここが窮屈」「もう少し丈を短く」などの意見を集約し、改良サンプルを再度作ってテストする。これを繰り返すうちに最適なサイズや色展開にたどり着きます。
6-2. 飲食:メニュー試作と試食会
新メニュー開発では、まず試作品を作り、スタッフや常連客に試食してもらいます。「味付けはどうか」「盛り付けの印象は」「調理時間やコストとのバランスは」などを確認し、数回の修正を行うことで、リリース時点の完成度を高められます。ここでの失敗は材料や食材のムダ程度で済むため、低リスクで大きな学習が得られます。
6-3. 建築・エステ・ITなどでのペーパープロトタイプや3Dモデル
建築関連では、紙や3Dプリンターを使った模型を作り、空間の動線や配置を確認することが定番。エステサロンの新コースづくりでも、実際にスタッフ同士が施術を行い合い、施術フローのデモを体験して改良を繰り返します。IT分野では、クリックダミーやワイヤーフレームを用いたペーパープロトタイプが、ユーザーの操作感を早期にチェックできる便利な手段となります。
6-4. 海外投資家向けコンサル:概念実証やミニマムバージョンを通じて検証
海外投資家が日本市場で新サービスを展開しようとする際、いきなり大規模にやるのではなく、ミニマムバージョンで概念実証(PoC:Proof of Concept)を試みる方法を提案することがあります。例えば、限定地域や小規模イベントでテスト的にサービスを提供し、そこで得たフィードバックを元に本格ローンチの計画を調整するのです。こうした試作品=実地テストの流れは、投資リスクを最小限にしながら市場適合度を検証できるため、海外投資家にも好評です。
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7. 試作成功へのポイント
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7-1. 完璧さよりスピード重視
最初から完璧な試作品を目指すと、時間やコストがかかりすぎる上に、フィードバックの機会が遅れます。とりあえず形にしてユーザーに見せることで、早期に改善点を見つけられるのが試作の利点。失敗を小さく行い、学習を大きく得ることが大切です。
7-2. ユーザー中心で考える
自分たちの都合だけで試作すると、見当違いの方向に行きがちです。誰が使うのか? どんなシーンで使うのか? その人にとって何が重要なのか? を常に意識しながらプロトタイプを作ると、フィードバックも的確に得られます。
7-3. 反復プロセスへの覚悟
一回作って終わりではなく、何度も改良を繰り返す姿勢が求められます。ファッションのサンプルウェアでもITのクリックダミーでも、一度目の試作品が完璧であることはほとんどありません。改善サイクルを何度回すかが、完成度を左右するポイントです。
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8. まとめと次回予告
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第5回は、デザイン思考の4番目のステップ「試作(Prototype)」について解説しました。アイデアを具体的な形にし、ユーザーやチームメンバーが実際に触れてみることで多くの学習が得られ、次の改良ステップを加速させるのが試作の最大の魅力です。要点を振り返ると以下の通りです。
• 試作は“仮の形”: 完璧を目指さず、低コスト・短期間で形にする
• ユーザーからリアルなフィードバックを得る: 言葉だけでなく、体験を通じた評価が重要
• 失敗を恐れず反復する: 試作とテストを何度も繰り返すことで完成度が高まる
どの業界や業種でも、このプロトタイプづくりの文化が根付いているかどうかで、イノベーションのスピードは大きく変わります。私自身もファッションや飲食、建築、エステ、IT、海外投資家向けコンサルなど多岐にわたる事業を並行しながら、試作をいかに素早く回して学習を得られるかに注力しています。
次回(第6回)は「テスト(Test)」フェーズを深掘りします。試作で得たフィードバックをどのように収集し、最終的なアイデア・プロダクトへと結びつけるのかがテーマです。ユーザーや市場からの声を最大限活かすための方法をぜひ学んでください。お楽しみに。
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(約10,000文字)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。試作(Prototype)の段階で早期かつ小さく失敗を重ねることが、最終的な大きな成功につながります。次回はこの試作段階で収集するフィードバックを活用し、アイデアをさらに磨き込む「テスト(Test)」フェーズを取り上げますので、ぜひ引き続きご覧ください。