型があるから型破り。型がなければ形無し。
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「業界の商流なんて気にしなくていい」というアドバイスが、実は危険な理由
「古い慣習にとらわれないで」
「業界の常識を一度疑ってみよう」
新しいビジネスを始めるとき、こういった言葉はとても勇気づけられますよね。特にスタートアップや新規事業では、既存の「商流(誰が、誰に、何を、どう流しているか)」にとらわれず、自由に発想することが大切だと言われます。
しかし、多くのビジネスの現場を見てきた私からすると、この考え方には少しだけ注意が必要です。
大切なポイントをお伝えします。
「商流を知らないまま無視する」と、事業は思わぬ壁にぶつかってしまいます。
「商流を深く理解した上で、あえて変える」なら、それは大きなチャンスになります。
今日は、この「似ているようで全く違う2つのアプローチ」について、少し掘り下げてお話しします。
1. 商流とは「業界のエコシステム」そのもの
なぜ、既存の商流を無視してはいけないのでしょうか。それは、現在の商流が「長い歴史の中で整えられた結果」だからです。
- なぜ問屋さんが入るのか?(在庫のリスクを分散するため)
- なぜその価格設定なのか?(販売コストと利益のバランス)
- なぜその支払い期間なのか?(業界全体の資金繰りのリズム)
これらは一見すると古く見えるかもしれませんが、その業界が安定して回るための「エコシステム(生態系)」として機能しています。
これを「よく知らないまま」無視してしまうのは、地図を持たずに森に入るようなものです。「取引先との関係がうまくいかない」「資金繰りのリズムが合わない」といったトラブルは、実は商流への理解不足から生まれることが多いのです。
2. ピカソの法則:基本があるからこそ、応用が輝く
ピカソの絵は独創的ですが、彼が若い頃に描いたデッサンは、写真のように精巧で基礎に忠実だったことをご存知でしょうか?
彼は「ルール(基礎)」を完璧にマスターしていたからこそ、それを効果的に「崩す」ことができたのです。
ビジネスも同じことが言えます。
AmazonやUberといった革新的な企業も、既存業界が抱える商流の課題や流れを、誰よりも深く研究していました。
彼らはただ商流を無視したのではなく、「既存の流れよりも、新しいテクノロジーを使った方が、お客様にとってメリットが大きい」という確信があったからこそ、新しいルールを作ることができたのです。
3. あなたは「準備不足」か「戦略的」か?
もしあなたが今、新しいビジネスで「業界の商流をショートカットしよう」と考えているなら、以下の問いを自分に投げかけてみてください。
- Q1. なぜ、今の商流はこの形になっているのか、その背景を説明できますか? (歴史や理由を知ることが第一歩です)
- Q2. 既存の商流を使わないことで発生する「見えないコスト(物流や集客の手間)」を、自社で負担しても大丈夫ですか? (実は既存の商流が肩代わりしてくれていたコストがあるかもしれません)
- Q3. 既存のパートナー(問屋や業界の方々)とも、うまく対話できる準備はできていますか? (対立するのではなく、新しい価値を提案できるのが理想です)
これらの問いに自信を持って答えられるなら、あなたの挑戦はきっと素晴らしいものになるはずです。
おわりに
商流は、変えるためにこそ、誰よりも深く理解する必要があります。
「型があるから型破り。型がなければ形無し」
歌舞伎役者、中村勘三郎の言葉は、ビジネスの世界においても大切なことを教えてくれます。
まずは、自社の業界の「流れ」を丁寧に知ること。本当の変化は、そこから始まります。