集客がうまくいったら、どの仕事が増えますか
「問い合わせを、今の倍にしたい」
集客の目標として、分かりやすい数字です。広告を出す人にも、ホームページを作る人にも伝わります。
ただ、その話を進める前に、一つ確かめたいことがあります。
その集客がうまくいったら、自社ではどんな仕事が増えるのでしょうか。
得意な仕事が増え、お客様にも喜ばれ、利益が残る。そうなるなら、集客に力を入れる理由があります。一方で、今でも対応に困っている依頼や、採算を合わせにくい仕事が増えるなら、問い合わせ件数が伸びても、経営の悩みは残ります。
集客は、仕事の量だけでなく、これから会社が引き受ける仕事の中身も変えます。だから私たちは、「どう増やすか」と一緒に、「どんな仕事を増やしたいか」を考えたいのです。
お客様は、こちらが見せた仕事を頼みに来る
例えば、企業のホームページを制作する会社を考えてみます。以下は、考え方を説明するための例です。
この制作会社は、短期間で小さなサイトを作る仕事にも対応できます。一方で、社内に経験が蓄積しているのは、依頼企業の商品や顧客を理解し、サイトの内容を継続して改善する仕事です。
経営者は、後者を増やしたいと考えています。ところが、自社の広告で大きく伝えているのは「低価格」「最短納期」。掲載する事例も、短期間で完成したサイトばかりです。
そこから、「費用を抑えて、来週までに作ってほしい」という問い合わせが来る。それは、お客様が悪いのでも、こちらの良さを理解していないのでもありません。制作会社が見せた内容を、お客様がそのまま受け取った結果です。
ここで広告を増やせば、問い合わせは増えるかもしれません。しかし、経営者が増やしたかった仕事に近づくとは限りません。
必要なのは、低価格の仕事を一律にやめることではありません。継続的な改善の依頼を増やしたいなら、改善を続けることで何が変わるのか、どんな企業に向くのかを、実際の対応内容や事例で伝える必要があるということです。
経営者が増やしたい仕事と、お客様から見えている仕事。この二つが違っていると、集客が成功しても、望んだ事業の姿から離れてしまうことがあります。
「集客を増やしたい」の中身を分けてみる
もちろん、売上が伸びない理由をすべて発信の内容で説明することはできません。
自社に合うお客様には選ばれているけれど、そもそも知られていない。問い合わせが来れば無理なく対応でき、利益も残る。こういう状態なら、接点を増やすことが必要です。広告や発信を控える理由はありません。
一方、問い合わせはあるのに申込みへ進まないなら、件数より先に確かめることがあります。料金や納期が合わないのか、頼める内容が分かりにくいのか、それとも返答や申込みの途中で止まっているのか。実際のやりとりを見なければ、理由は分かりません。
受注はできているのに利益が残らない場合は、さらに別です。仕事内容、価格、かかる時間、引き受けている対応を見直す必要があります。
「売上が足りない」という同じ悩みでも、知られる機会を増やすのか、選ぶための情報を整えるのか、受けた仕事の採算を見直すのかでは、次にすることが変わります。
最初に分けたいのは、お客様が少ないことと、今の仕事の受け方では十分に利益が残らないことです。この二つを同じ問題にすると、必要な改善まで「もっと集客しよう」の一言に隠れてしまいます。
件数と一緒に、依頼された内容を残す
増やしたい仕事を考えるときは、頭の中だけで理想のお客様を作らず、最近の仕事を振り返ってみます。
お客様は、何を頼みたくて連絡してきたのか。何を見て、自社に頼めると思ったのか。受注した場合、実際にはどんな仕事になったのか。
問い合わせの記録と、仕事を担当した人の記録をつなげて見ると、入口の期待と、実際の仕事の関係が見えてきます。
例えば、「料金を知りたい」という連絡でも、安いところを探しているとは限りません。依頼を考えている担当者が、勤務先で予算を確保するために金額を確認しているだけかもしれません。逆に、問い合わせの時点では具体的な話が進んでいても、必要な条件が合わずに見送りになることもあります。
短い言葉だけで、お客様の価値や本気度を決めないことです。「料金の質問があった」「この条件を伝えた後で止まった」という事実と、その理由についての推測を分けておきます。
受注後も、売上だけで判断を終えません。原価や外注費に加え、打ち合わせ、準備、納品後の対応にかかった時間を確認する。何度も頼まれる仕事なら、次回は準備を共通化できるのかまで考えます。
一件だけで結論を出さず、いくつかの仕事を比べてみる。単価は高くなくても無理なく続く仕事、金額は大きくても毎回予定が崩れる仕事など、売上の一覧だけでは分からなかった違いが見えてくることがあります。
「増やしたい仕事」を、相手にも伝わる言葉にする
ここまで整理すると、集客の依頼も具体的になります。
「問い合わせを増やしてください」だけでは、制作担当者や広告担当者は、まず件数を増やす方法を考えます。どの仕事を増やすことが自社の経営にとって良いのかは、件数だけでは伝わりません。
先ほどの制作会社なら、例えばこう伝えられます。
「サイトを新しく作って終わりではなく、公開後も商品説明を改善したい企業からの相談を増やしたい。まずは継続改善の内容が分かるページと事例を整えたい」
これなら、見せる事例や、先に説明する内容を選べます。「安い」「早い」をさらに強く言う以外の判断ができるようになります。
同時に、会社が受けられる件数や時期も確認します。得意な仕事でも、一度に増えすぎれば、お客様への対応が遅れるかもしれません。新規の仕事に時間を使うことで、継続中のお客様への対応を減らしてよいのかも考える必要があります。
増やしたい仕事を決めることは、都合のよいお客様だけを選ぶことではありません。自社が責任を持って価値を届けられる仕事を明らかにし、その仕事を必要としている人に伝えることです。
増やす判断にも、続けるための条件がいる
目先の売上を確保するために、今すぐ受けられる仕事を増やしたい時期もあるでしょう。将来増やしたい仕事だけで、来月の経営が成り立つとは限りません。
その場合も、今月の売上をつくる仕事と、これから育てたい仕事を分けて考えることはできます。既存の依頼を急に断ったり、広告をすべて止めたりする必要はありません。一部の案内や事例から変えて、どんな相談が来るかを確かめる方法もあります。
ただし、新しい仕事は必ず利益が出る、継続契約なら安定する、と先に決めつけないことです。始めるための費用、習熟までの時間、必要な対応は、実際に進めてみて分かる部分もあります。
集客の変化を見るときは、問い合わせ件数とともに、増やしたかった仕事の相談が来たか、受注後も想定した時間で対応できたかを確認する。件数が少なかった月でも、中身が変わっている場合があります。ただし、その変化だけで成功とせず、必要な売上と利益に届く見通しまで確かめます。
私たちは、集客の相談を「人を増やす方法」だけで終わらせたくありません。その先で、会社にどんな仕事が残り、お客様にどんな価値を届けられるかまで考えたいのです。
集客がうまくいったら、どの仕事が増えるのか。その仕事は、お客様に喜ばれ、自社も続けていけるものなのか。
そこまで決まると、集客の目標は単なる件数ではなく、目指す事業に近づくための具体的な判断になります。
前田正浩
2000億円売ってきたからわかること
DEARS CONSULTING代表。商品や価格、ブランドについて、経営の現場で考えたことを書いています。