「融資は通るのに、なぜ手元が不安?」
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深夜の帳簿と向き合う時間
月末の締め作業を終えた深夜、あなたは決算書を見つめながら、ある矛盾に直面しているかもしれません。
銀行は追加融資にも前向きで、借入枠にはまだ余裕がある。決算上の数字も悪くない。それなのに、なぜか手元資金への不安が拭えない。
「この売上なら大丈夫なはずなのに、なぜ現金が思ったほど残らないんだろう」
この感覚、決してあなただけのものではありません。むしろ、事業が拡大している中堅企業の経営者ほど、この「数字上は健全なのに現実感がない」というギャップを抱えています。
売上が上がっても現金が増えない、本当の理由
問題の核心は、多くの経営者が「損益計算書の利益」と「実際のキャッシュフロー」を混同していることにあります。
例えば、月商5,000万円の事業で、売上が前年比120%に伸びているとします。粗利率も安定している。経常利益も確実に出ている。銀行も「成長企業」として高く評価してくれる。
しかし、売上が伸びるほど、実は現金が手元から消えていくという現象が起きます。
売掛金が1ヶ月分多く発生し、在庫も1.2倍に増える。設備投資や人件費の支払いは現金で行われる。一方で、売上の入金は30日から45日後。この「時間差」が、成長企業特有のキャッシュフローの圧迫を生んでいます。
見落としがちな「隠れた現金流出」
さらに厄介なのは、決算書には現れにくい現金の流出があることです。
税金の支払い、社会保険料、賞与の積み立て、設備のリース料、そして何より「季節変動」への備え。これらは利益とは別の動きをします。
ある中堅企業の社長は、こんな話をしてくれました。「3月の決算で過去最高益を記録したのに、6月になって運転資金が足りなくなった。なぜなら、4月と5月の売上が例年より低く、一方で賞与と税金の支払いが重なったから」
成長期の企業ほど、この「見えない現金の動き」に振り回されがちです。
借入枠があっても安心できない理由
「でも、借入枠があるから大丈夫でしょう」と思われるかもしれません。
確かに、銀行が融資を承認するということは、あなたの会社の財務状況を一定程度評価している証拠です。しかし、借入枠があることと、実際に必要なタイミングで資金調達できることは、必ずしも同じではありません。
融資の実行には時間がかかります。申し込みから実際の入金まで、早くても2週間、通常は1ヶ月程度。急な資金需要には間に合わないことがあります。
また、借入れは返済義務を伴います。一時的な資金繰りの改善のために借入れを繰り返すと、気がついたときには月々の返済負担が重くなっている、という事態も起こりがちです。
キャッシュフローの「3つの落とし穴」
落とし穴1: 売掛金の回収サイクル
売上が伸びるほど売掛金も増える。回収までの期間が1ヶ月延びるだけで、月商分の現金が手元から消える計算になります。
落とし穴2: 在庫の膨張
事業拡大に伴い、在庫も比例して増える傾向があります。在庫は資産ですが、現金ではありません。在庫が増えた分だけ、現金が在庫に姿を変えているのです。
落とし穴3: 成長投資のタイミング
人材採用、設備投資、システム導入。これらの成長投資は、効果が現れる前に現金が必要になります。投資回収までの期間、手元現金は確実に減っていきます。
経営者が取るべき「予防策」
この状況を改善するために、まず必要なのは「キャッシュフロー予測」を習慣化することです。
損益計算書ではなく、実際の現金の動きを3ヶ月先まで予測する。売上の入金予定、仕入れや経費の支払い予定、税金や賞与の支払いタイミングを月別に整理する。
そして、現金残高が最も少なくなる月を特定し、その1ヶ月前には資金調達や支払いの調整を行う。このルーティンを身につけるだけで、「気がついたら現金が足りない」という事態はほぼ防げます。
また、売掛金の回収条件や支払いサイトの見直しも効果的です。例えば、月末締め翌月末払いを、月末締め翌月15日払いに短縮できれば、それだけで半月分のキャッシュフローが改善されます。
本当に必要なのは「現金の見える化」
借入枠があるのに手元資金が不安になるのは、実は経営者として正常な感覚です。現金こそが事業継続の生命線だからです。
大切なのは、その不安を漠然としたものにせず、数字で「見える化」すること。そして、現金の動きを先回りして管理する仕組みを作ることです。
利益が出ているのに現金が不安、という状況は、事業が成長している証拠でもあります。その成長を持続可能にするために、キャッシュフローという「もう一つの経営指標」に注意を向けてみてはいかがでしょうか。
明日からでも始められることは、手元の現金残高と向こう3ヶ月の資金繰り予定表を作ることです。それだけで、漠然とした不安が具体的な行動計画に変わっていくはずです。
DEARS CONSULTING 前田正浩
企業の「規模ではなく不可欠な存在に変わる経営戦略」を発信しています。
note でも実例ベースの話を続けています。 → noteをフォローする