2代目社長が現場を遠く感じる理由
Contents
なぜ、あれほど現場を知っていたはずなのに
「父の頃は、現場の声がもっと聞こえていた気がするんです」
事業を引き継いで数年。規模は確実に大きくなった。従業員も増え、売上も伸びている。それなのに、なぜか現場の実態が見えにくくなった。そんな違和感を抱く2代目社長は少なくありません。
父親の代では、社長が現場に顔を出せば「今日はちょっと材料の調達が遅れてまして」「あのお客さんは追加の要望が多くて」といった生の声が自然に上がってきた。ところが今は、定例会議で「順調です」「問題ありません」という報告ばかり。本当の課題がどこにあるのか、つかみにくくなっている。
これは決して、あなたの経営能力が父親に劣るからではありません。実は、組織が成長する過程で必然的に起きる構造変化なのです。
父親の代と今、何が根本的に違うのか
最も大きな違いは、階層の深さです。
創業者の頃は、社長と現場の間に人がいませんでした。課長も部長もおらず、現場の声は直接社長に届いていた。しかし今は、現場担当者→係長→課長→部長→社長という階層ができています。
情報は各階層で「翻訳」されます。現場の生々しい困りごとは、係長レベルで「対応中の案件」に変換され、課長レベルで「管理すべき事項」となり、部長レベルで「報告事項」に整理される。社長の耳に届く頃には、現場感が抜け落ちた「概況報告」になってしまうのです。
加えて、組織が大きくなると心理的な距離も生まれます。現場の担当者にとって、社長は「直接話しかける相手」ではなく「報告すべき相手」に変わります。父親の代には「ちょっと社長、これ見てくださいよ」と気軽に声をかけていたスタッフも、今は「まず上司に相談してから」と考えるようになる。
これは組織が成熟している証拠でもあります。しかし、経営者にとっては現場との距離を感じる要因にもなります。
見えなくなった現場の向こうに、新しい経営課題が生まれている
実は、「現場が見えなくなった」と感じる2代目社長が直面しているのは、単なる情報収集の問題ではありません。もっと本質的な経営課題の入り口に立っているのです。
父親の代は、社長が現場のすべてを把握し、その場で判断を下していました。いわば「全能の社長システム」で会社が動いていた。しかし組織が大きくなると、社長一人ではすべてを見切れません。現場の判断を現場に委ね、中間管理職に権限を移譲する必要が出てきます。
ここで多くの2代目社長が気づくのが、「判断基準の共有」という新たな経営課題です。
父親の代では、困ったことがあれば社長に聞けば答えが返ってきました。しかし今は、現場の管理職が「この場合はどう判断すべきか」を自分で考えなければならない局面が増えています。そのとき、会社として一貫した判断ができているでしょうか。
お客様への対応方針、品質の基準、納期調整の優先順位、追加費用の判断ライン。これらが現場の「なんとなく」に委ねられていると、結果的にお客様が受ける体験がバラバラになってしまいます。
組織が大きくなると、ブランドが試される
ここで浮かび上がってくるのが、会社のブランドアイデンティティの重要性です。
創業者の頃は、社長の価値観や判断基準が会社の基準でした。社長が現場にいるかぎり、一貫性は保たれていた。しかし組織が階層化すると、社長の価値観を組織全体で共有する仕組みが必要になります。
「うちの会社は何を大切にするのか」「どんな価値をお客様に提供するのか」「困ったときの判断の軸は何か」。これらが明文化され、現場の管理職まで浸透していなければ、組織は方向性を失います。
逆に言えば、現場が見えにくくなったいまこそ、会社の核となる価値観を言語化し、組織に浸透させる絶好のタイミングなのです。
たとえば、お客様からの追加要望があったとき。「できる限りお応えする」のか「予算と工期を守ることを優先する」のか。どちらも間違いではありませんが、現場の判断がバラバラだと、お客様の体験は一貫しません。
この判断基準を明確にし、なぜそう判断するのかの背景まで現場と共有できれば、社長がいなくても一貫した対応ができるようになります。
見えなくなった現場から、見えてくる経営の本質
多くの2代目社長が「現場が見えなくなった」と嘆く一方で、実はこの状況から見えてくるものがあります。それは、組織として動く会社の可能性です。
父親の代の「社長がすべてを見る経営」には限界があります。社長が倒れれば会社は止まり、社長がいない間は重要な判断ができません。しかし組織化が進めば、社長がいなくても現場が適切に判断し、お客様に価値を提供し続けることができます。
現場が見えなくなったのは、現場が自立し始めた証拠かもしれません。問題は、その自立が会社の方向性と一致しているかどうかです。
ある中堅企業の2代目社長は、こんな気づきを教えてくれました。「父の代は、父という人格で商売をしていた。でも今は、会社という組織で商売をしている。だから父の時代とは違うマネジメントが必要だったんです」
現場の声が直接聞こえなくなったからといって、現場から離れたわけではありません。むしろ、現場を活かすための新しい経営スタイルを模索する段階に入ったのです。
明日から始められる、組織の本質を見つめ直す第一歩
では、現場との距離を感じる2代目社長は、どこから手をつければよいのでしょうか。
まず試してみたいのは、「判断基準の棚卸し」です。過去1か月間で現場が迷った場面、お客様からのクレーム、スタッフ同士の意見の食い違いを書き出してみてください。そこに共通して現れるのが、「会社として明確になっていない判断基準」です。
たとえば「お客様の要望にどこまでお応えするか」「品質とコストのバランスをどう取るか」「納期とクオリティ、どちらを優先するか」。これらの基準が曖昧だと、現場は毎回悩むことになります。
次に、現場の管理職と「価値観の対話」をしてみてください。「うちの会社がお客様に提供したい価値って何だろう?」「困ったときの判断で、いちばん大切にしたいことは?」こうした対話を通じて、組織全体で共有すべき価値観が見えてきます。
そして何より、現場が見えにくくなったことを「経営の課題」ではなく「経営の進化」として捉えてみてください。父親の代を超える組織を作るための、必要なステップなのかもしれません。
組織が大きくなることで見えなくなるものがある一方で、組織だからこそ実現できる価値もあります。その可能性に気づいたとき、2代目社長の本当の経営が始まるのです。
DEARS CONSULTING 前田正浩
企業の「規模ではなく不可欠な存在に変わる経営戦略」を発信しています。
note でも実例ベースの話を続けています。 → noteをフォローする